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皆さまはレストランなどのメニュー選びで迷った時に、「おすすめ」の表示があると、つい頼んでしまうことはありませんか?
これは、行動経済学で「ナッジ」と呼ばれる手法です。「おすすめ」と表示することによって、実質的に選択肢を減らすテクニックです。販売やマーケティングなどの分野で注目の高い手法ですが、最近は、公共政策や公共サービスへの活用が期待されています。すでに成功事例がある欧米の取り組みとともに「ナッジ」とは何か?日本ではどのように活用されているかをご紹介します。

ナッジ(nudge)とは

ナッジ(nudge)は「ひじでそっと突く」という意味の英単語です。
冒頭の「おすすめ」表示のように、人々が強制ではなく自発的にこちらの意図するものを選択するよう、そっと促す工夫のことを、行動経済学ではナッジと呼びます。
2017年に、ナッジ理論を提唱するシカゴ大学のリチャード・セイラー教授が、ノーベル経済学賞を受賞したことでナッジが注目されました。

ナッジにはさまざまなテクニックがあります。有名な事例は「ハエの絵」です。これは、「人は的があると、そこに狙いを定める」という人の行動分析の結果に基づいて、男子トイレの内側にハエの絵を描いたところ、ハエの絵という的を狙って用を足すので、結果的に飛び散りが軽減され清掃費が大幅に減少したというものです。「トイレはきれいに使ってください」などの張り紙をするよりも、自発的にトイレの望ましい利用を促せるこのやり方の方がスマートですね。

欧米では公共政策にナッジを活用

これまで、公共政策では、法規制、金銭的インセンティブ付与、普及活動などを使い分け、人々に選択を促してきました。しかし、それらは間接的なものであり、もっと自発的な行動を生み出すための仕掛けが必要とされています。その仕掛けにナッジを活用する流れが出てきました。
先ほど紹介したの「ハエの絵」の事例では、強制したわけでもなく、金銭的なインセンティブを付与したわけでもないのに人が望ましい行動をとるように促すことができました。このように、対象者にとって自由度が高く、費用対効果の高い新たな政策手法として、ナッジへの期待が高まっています。

欧米では政府・自治体が積極的にナッジを活用して、人々に公共の利益になる選択を促し成功をおさめています。
たとえばアメリカでは、老後資金を蓄えるための確定拠出型年金プランへの加入率の低さが問題となっていましたが、初期設定を「加入しない」から「加入する」に変更したところ、加入者を増加させることに成功しています。人は無意識のうちに現状を維持しようという性質をもっているので、とってほしい行動を初期設定値としておき、他の選択肢を選ぶ可能性を低くするというテクニックを利用したものです。

また、イギリスにおいては、2010年に「Behavioral Insights Team」(BIT:通称ナッジ・ユニット)を立ち上げ、下記を目的にさまざまなナッジのテクニックを公共サービスなどに取り入れてきました。

  • 公共サービスをコスト効率的かつ市民が利用しやすいものにする
  • 人間の行動に関するより現実的なモデルを政策に導入して成果を改善する
  • 人々が自分たちにとってより良い選択ができるようにする

なお、ナッジ・ユニットは、数々の社会実験を成功させ、現在は世界各国や国際機関を顧客とするコンサルティング会社となってグローバルに活動しています。

日本での取り組み

欧米における公共政策へのナッジ活用の成功を受けて、日本でも、2017年4月に「日本版ナッジ・ユニット」が設立されました。
「日本版ナッジ・ユニット」は、環境省を中心にした関係府省や自治体などによる産学官連携の取り組みで、ナッジを含む行動科学の政策への活用と、行動変容の促進を通じたイノベーションの創出・実装に関する実証事業(ナッジ事業)を実施しています。

一つの実証では、ビッグデータ解析とナッジを応用して作成したレポートを送付し、エネルギー使用状況などの情報提供を行いました。レポートを送付しない2万世帯と比較した結果、ナッジを活用した情報提供によって省エネルギー意識の向上や、省エネルギー行動の促進がみられたことが確認されています。
送付されたレポートには、「お客さまのご使用量は、省エネ上手なご家庭と比べて約54,231円増です」と損失を印象的に伝えるメッセージや、昨年比の評価を直感的に理解できるようグラフ表示するなど、省エネアドバイスの表示方法にナッジのテクニックが活用されました。

引き続き実証は実施され、公共政策への効果的なナッジ活用パターン構築に向け、毎年度中間審査を実施し、経費・事業計画の見直しの要否や事業継続可否の判断を行います。

ナッジは、うまく活用すれば、ささやかなきっかけで人々の行動を変えることができます。公共政策へのナッジ活用は、環境対策だけでなく、社会保障改革などでも取り入れられようとするなど広がりを見せています。
自治体においても、住民にみずからの意思で公共の利益につながる選択を促すことができると期待されますし、「未来投資戦略2018」や「経済財政運営と改革の基本方針2018」など、政府の各戦略においても、ナッジの活用が明記されているので、今後の動向にも注目です。

参考

  • The Behavioural Insights Team(英語サイト)

(2018年11月12日 公開)

  • * 記事の内容は配信時点での情報をもとに作成しているため、その後の動向により、記載内容に変更が生じている可能性があります。

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