教えて!自治体ICT
はい。政府は、2017年に策定した「デジタル・ガバメント推進方針」以降、デザイン思考を行政サービス改革の基本思想として位置付けており、「デジタル・ガバメント推進標準ガイドライン」にも盛り込むなど、具体化を進めています。
では、それだけ重要視されているデザイン思考とはどういったものなのでしょうか。デザイン思考とは、これまでデザイナーが仕事の中で培ってきた「手法」や「思考の方法」を、複雑な問題を持っているサービスやシステムを設計するために利用することを指し、次の5ステップからなると言われています。
この5つのステップをもう少し具体的にイメージしていただくために、特許庁のデザイン経営の事例で説明します。
特許庁は、デザイン思考を活用した「デザイン経営」を推し進めることを2018年に宣言しています。「デザイン経営」とは、デザイン思考力をブランドの構築やイノベーションの創出に活用する経営手法であり、その本質は、人(ユーザー)を中心に考えることで、根本的な課題を発見し、これまでの発想にとらわれない、それでいて実現可能な解決策を、柔軟に反復・改善を繰り返しながら生み出すこととしています。
特許庁の「デザイン経営」から、デザイン思考の心構えとプロセスを説明します。
この「デザイン経営」の心構えは、デザイン思考を活用する際も参考になります。どれも重要なものですが、特に「ユーザーの視点になって考えよう」「質の前にとにかく量を出そう」「検証して反応を得よう」「早めに失敗して試行錯誤を繰り返そう」などは、デザイン思考で問題解決する上で重要なポイントになると考えられます。
「ダブルダイヤモンド・モデル」は、先に説明したデザイン思考の5ステップをプロセスに落とし込んだものです。デザイン思考においては、「発散」「収束」を繰り返すことが大事なポイントと考えられます。最初から絞り込んで検討するのではなく、まず多様な考えや気づきを出すことで今までの観点では出てこなかった視点や考えが見えてきます。発散して出てきたさまざまな考えや気づきを整理し絞り込んでいくことで、関係者が腑に落ちた上で、次のステップに進むことができます。
つまり、デザイン思考の5ステップを順番に行うというよりは、プロセスを繰り返す、プロトタイピング的なアプローチが成功の秘訣と言えるでしょう。
はい。こちらも特許庁の「デザイン経営プロジェクト」の中にヒントがあります。デザイン思考は複雑な問題の解決方法を探る手法です。人口減少や過疎化といった自治体が抱える問題は、多くのステークホルダーがいたり、複数の要因があったり、実現するには制限が多かったりと複雑なものです。こういった正解のない解決困難な問題の解決方法を探るには、デザイン思考の心構えやプロセスが参考になります。
特許庁では、「デザイン経営プロジェクト」として、テーマの異なる部署横断的な6チームを作り、外部のメンターやサポーターとともに1年間かけて取り組みました。その結果、これまで気づいていなかった課題に気づけたり、ユーザーにとって価値の高い複数のサービスを検討し試作品で迅速に検証できたりするといった効果があったとのことです。
特許庁では1年間かけてデザイン思考を実践していますが、デザイン思考の全プロセスでの活用が難しい場合は、デザイン思考の心構えをまず取り入れてみたり、手法の一部を活用したりするのも効果的です。たとえば、どのような人のどんな問題に対しての解決策なのか、その問題を解決することでその人にはどんな嬉しさがあるのか、といった観点で現状を整理してみると、新たな気づきが得られることもあります。また、付せんに書き出したり、絵で表現してみたりすることで、ステークホルダー間での理解が進み、新たな意見が出てくるなどの効果もあります。
繰り返しになりますが、デザイン思考は正解のない解決困難な問題の解決方法を探る手法の一つです。こういった手法をうまく取り入れながら、すべてのステークホルダーにとってよりよい問題解決ができるよう、取り組んでいきたいですね。
(2020年5月25日 公開)
配信を希望される方へ
自治体ICTに関する事務局おすすめの記事をメールマガジンでお届けします。登録は無料です。