読んでナットク!自治体ICT
執筆:森重 福一(自治体ICTコンサルタント)
少子高齢化や人口減少、さらに労働力の不足による生産性の低下や社会保障費の負担増が深刻化するという、いわゆる「2040年問題」の解決策の1つとして、自治体にはスマート自治体への転換が求められています。今回は、自治体のAI導入状況や、政府が検討している自治体向けのAI関連のガイドラインと補助金の活用、人材育成について整理しました。
「2040年問題」によると、2040年には65歳以上の高齢者の人口がピークになり、約4,000万人に達するといわれています。高齢者人口が増えることで、現役世代1.5人が1人の高齢世代を支える構図になり、労働力の不足による生産性の低下や、社会保障費の負担増が深刻化するとみられています。
これらの問題を解決するために、総務省は「自治体戦略2040構想研究会」を開催し、報告書を2度公表しています。この報告書の中で、人口縮減時代のパラダイムへの転換に向けた解決策の1つとして、自治体にはスマート自治体への転換が求められています。
また、スマート自治体を実現することで、以下のような姿をめざすとしています。
今回は、この中のAIにフォーカスしてお話を進めます。
現在、自治体においてAIはどのくらい活用されているのでしょうか?
2021年4月に総務省が「令和2年度 地方自治体におけるAI・RPAの実証実験・導入状況等調査」として公表した資料を見ると、以下の傾向が見えてきます。
現状の自治体のAI活用状況を踏まえ、政府がさらなる活用を推進するために、自治体向けのAI関連のガイドラインと補助金を用意しています。
ガイドライン | 公開時期 | 詳細 |
---|---|---|
自治体におけるAI活用・導入ガイドブック | 2021年6月 | 自治体AI共同開発推進事業の成果を基に、クラウドAI導入時に活用可能なガイドブックを公開。 「導入手順編」と「実証要点まとめ編」が用意されている。 |
自治体DX推進手順書 | 2021年7月 | 政府の施策展開を踏まえつつ、業務改革(BPR)を含めた標準化などの進め方について策定し、提示。 |
政府は自治体の基幹的な業務(住基・税・福祉など)について、補助金を活用して人口規模別に検討・標準モデルを作成し、N倍化する施策や共同調達を支援しています。また、この取り組みには地方創成臨時交付金なども活用されています。
具体的には、AIやRPAを対象に、以下のような事業・施策で補助金や特別交付金が用意されています。
総務省の「令和2年度 地方自治体におけるAI・RPAの実証実験・導入状況等調査」にもありましたが、AIの活用に取り組むための人材がいない、または不足していることがアンケート結果からも明確になっています。また、2019年に経済産業省が発表した「IT人材需給に関する調査」によると、2030年にAIやIoTにかかわる先端人材は54.5万人足りなくなるが、受託開発や保守運用を担う従来型のIT人材は9.7万人余るという調査結果が公表されており、いかに従来型のIT人材を先端人材に転換していくが重要なテーマとなっています。
近年では、ディープラーニングの基礎知識を持ち、適切な活用方針を決定して事業に応用する能力を持つ人材をターゲットとした資格検定も実施されています。また、AIの基本知識の習得のための無料ツールなどもインターネット上に公開されています。
自治体においてAIの活用を推進するためには、これらの資格制度やツールを活用して、AIを使いこなせる庁内の有識者の育成や、若手リーダー育成の種まきに早期に取り掛かることが重要と考えます。また、自治体DX推進計画を進める上では、これらの人材育成がデータの利活用やEBPMなどのスキル向上にも寄与すると考えています。
森重 福一(自治体ICTコンサルタント)
株式会社 日立システムズに入社し、前半は中央官庁のSEとして大規模プロジェクトを経験、後半は自治体のパッケージ開発部門で電子自治体や地域情報プラットフォーム対応に携わる。日立システムズ退社後も、国や自治体関連のコンサルティング業務をメインに活動中。自治体クラウドやマイナンバー対応に携わり、個別案件の提案、講演会、勉強会、ユーザー会などを精力的に取り組み最新情報の共有、発信に努めています。
(2021年7月26日 公開)
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