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執筆:森重 福一(自治体ICTコンサルタント)

以前お伝えした「スマート自治体の実現に向けたAI活用と人材育成の勧め」では、AIにフォーカスしてスマート自治体の実現に向けた動向をご紹介しました。今回はRPAにフォーカスし、自治体のRPA導入状況や、政府が検討している自治体向けのRPA関連のガイドラインと補助金、RPA活用の方向性について整理しました。

なぜ今RPA活用が必要なのか

「2040年問題」により、自治体は経営資源が大きく制約され、より少ない職員での行政運営が必要になると考えられています。総務省は、解決策の1つとして、自治体に「スマート自治体」への転換を示しました。スマート自治体は、AI・RPAなどを活用して職員を単純事務作業から解放し、より付加価値のある業務に専念できるようにして、自治体が高い水準の行政サービスを維持することをめざすものです。

<スマート自治体におけるAIとRPAの違い>
AI:データに基づいて分析や予測をしたり、ノウハウを蓄積して人の判断を支援したりする
RPA:情報の取得・抽出・入力など定型作業を自動化する

自治体のRPA活用状況

現在、自治体においてRPAはどのくらい活用されているのでしょうか?総務省の「自治体におけるAI・RPA活用推進」(2021年7月14日時点)によると、以下の傾向が見えてきます。

  • 導入済み団体数は、都道府県が74%、指定都市が65%まで増加した。その他の市区町村は19%にとどまっているが、導入予定、導入検討中を含めると約6割の自治体がRPAの導入に向けて取り組んでいる。
  • 令和元年度調査と同様に、「財政・会計・財務」、「組織・職員(行政改革を含む)」への導入が多い中、令和元年度調査では3番目に多かった「児童福祉・子育て」が、令和2年度調査では「組織・職員」の回答数を超して2番目に多い回答となった。また、平成30年度では0件であった「生活困窮者支援」がその他市区町村を中心に増加している。
  • RPAの導入における課題として、上位2項目(「取り組むための人材がいない又は不足している」、「取り組むためのコストが高額であり、予算を獲得するのが難しい」)の回答が増加している。
  • RPAの共同利用については、AIに比べ「実施中」の団体は少数となっているが、「検討中」の回答が139団体あり、共同利用での導入が進むことが期待される。

[イメージ]地方自治体におけるAI・RPAの導入状況(RPA導入状況


[イメージ]地方自治体のRPAの導入状況 〜RPAの分野別導入状況〜(2)


[イメージ]地方自治体のRPAの導入に向けた課題(2)


[イメージ]地方自治体のAI・RPAの共同利用での導入状況
出典:自治体におけるAI・RPA活用促進(総務省)

RPA関連のガイドライン・補助金

現状の自治体のRPA活用状況を踏まえ、政府がさらなる活用を推進するために、自治体向けのRPA関連のガイドラインと補助金を用意しています。

■RPA関連のガイドライン

ガイドライン 公開時期 詳細
自治体におけるRPA導入のすすめ 2021年1月 RPA活用の背景や、RPAの導入の流れ、導入事例を簡潔にまとめたパンフレットです。
自治体におけるRPA導入ガイドブック 2021年1月 過去の自治体導入状況調査の結果を踏まえ、RPA導入時の進め方、導入対象業務の選定、導入後の運用方法などについて解説しています。自治体の取り組み事例も付録しています。
自治体におけるRPA活用ガイドブック 2021年3月 APPLIC会員団体有志により自治体職員の方向けのガイドブックとして作成されたものです。トップダウン方式とボトムアップ方式、どちらのRPA導入にも参考にしていただけるものとして作成されています。
RPA導入実践ガイドブック 2021年3月 サービス・業務改革、およびそれにともなう政府情報システムの整備・管理に関連して、多くの組織で利用が検討されているRPAについて、官公庁や民間の活用事例に基づき実践に向けた考え方などを示したものです。

■RPA関連の補助金

政府は自治体の基幹的な業務(住基・税・福祉など)について、補助金を活用して人口規模別に検討・標準モデルを作成し、N倍化する施策や共同調達を支援しています。また、この取り組みには地方創生臨時交付金なども活用されています。
具体的には、2021年度のRPAについて、以下のような事業・施策で補助金や特別交付金が用意されています。

  • 自治体行政スマートプロジェクト(令和2年度補正予算)
  • RPA実装のための特別交付税措置
    2021年度のAI・RPA導入に関する経費については、情報システムの標準化・共通化を行う17業務を除き、単独調達は措置率0.3、共同調達は措置率0.5の特別交付税措置となっています。

RPA利活用の方向性

2020年12月に公表された「自治体デジタル・トランスフォーメーション(DX)推進計画」でも、重点取り組み事項として「自治体のAI・RPAの利用推進」が挙げられています。また、総務省は2019年度から開始された「自治体行政スマートプロジェクト」において、自治体の基幹的な業務(住民基本台帳・税務など)の業務プロセスについて団体間比較を実施し、RPAなどの技術を活用した業務プロセス構築の実証事業を行い、横展開を推進することをめざしています。ポイントとなるのは、共同利用と継続利用(シナリオの保守・運用)です。

■共同利用

先ほどお伝えしたように、RPAは共同利用での導入が進むことが期待されます。例えば、愛知県では県内の市町村において、AIやRPAを活用した業務改革を推進するために、紙帳票の手書き文字を高精度でデータ化するAI-OCRサービスを県内で共同利用しています。このサービスの利用によって、業務で使用する紙帳票をデジタル化することで、データ入力作業の時間削減などの効率化が期待できます。さらに、業務自動化の効果を向上させるRPAサービスなども、本サービスと組み合わせて利用することができます。

■RPAの継続利用(シナリオの保守・運用)

現在RPAシナリオの作成管理は、原課、情報政策担当課、ソフト提供会社、ソフト提供会社とは別の業者などで行われることが多いです。一般に、職員での維持管理が異動などで難しい場合は、委託方式がとられています。今後、自治体業務の標準化・外部入出力帳票の標準化が進むと、今まで以上にシナリオのテンプレート化が加速され、基幹開発ベンダーからのパッケージとRPAが一体となったサービス提供なども考えられます。法律改正時に、パッケージとRPAのシナリオが同期をとって改善・提供されるようになるかもしれません。

自治体においては、定型業務が多く、慢性的な人員不足の上に新型コロナウイルス対応などの対応に追われているため、RPAの利活用が重要なテーマとなっています。今のところ、先進的な取り組みや実証実験が多いようですが、今後本格的に実装するにあたっては、AI・RPAが、利活用を意識せずに、便利に使われていくステップに到達することを期待しています。

執筆者プロフィール

[画像]森重 福一

森重 福一(自治体ICTコンサルタント)
株式会社 日立システムズに入社し、前半は中央官庁のSEとして大規模プロジェクトを経験、後半は自治体のパッケージ開発部門で電子自治体や地域情報プラットフォーム対応に携わる。日立システムズ退社後も、国や自治体関連のコンサルティング業務をメインに活動中。自治体クラウドやマイナンバー対応に携わり、個別案件の提案、講演会、勉強会、ユーザー会などを精力的に取り組み最新情報の共有、発信に努めています。

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