読んでナットク!自治体ICT
政府のIT戦略である「世界最先端デジタル国家創造宣言・官民データ活用推進基本計画」。この中で、「自治体ピッチ」の実施が明記されています。
「ピッチ(Pitch)」とは、新しいアイデアやサービスなどを手短にプレゼンテーションすることを指します。
起業家の多いアメリカでは、投資家に資金を融資・投資してもらうための「ピッチ」が日常的に行われていますが、自治体ピッチとはどういったものなのでしょうか。
ピッチとは新しいアイデアやサービスを紹介する際に行うプレゼンテーションのことで、通常のプレゼンテーションより短い時間で行われます。
たとえば、アメリカ・シリコンバレー発祥の「エレベーターピッチ」では、起業家が投資家に対してピッチする時間はわずか15秒から30秒と言われています。このような短い時間でアピールするためには、簡潔に伝えて心をつかむことが重要です。
また、複数のスタートアップ企業やベンチャーキャピタルが参加するピッチイベントでは、スタートアップ企業は、不特定多数の相手に対しピッチするので、新しいアイデアやサービスの内容にまったく知識がない相手にも、わかりやすく伝えなければなりません。さらに不特定多数の相手の心をつかむために、共感しやすい内容で相手の興味を引くといったテクニックが使われています。
このように、ピッチには、簡潔であること、わかりやすいこと、共感しやすいことが求められています。
日本においても、さまざまなピッチイベントが開催されるようになり、政府や自治体の参加も増えてきました。 一般的なピッチイベントが、サービスの認知拡大、パートナー企業の発見、資金調達などを目的にしているのに比べると、政府や自治体が主導するピッチイベントでは、意見交換や起業家支援の要素が多く見られます。
たとえば、2018年10月から開催されている「Pitch to the Minister 懇談会 “HIRAI Pitch”」は、平井内閣府特命担当大臣に行うピッチです。このピッチでは、情報通信技術(IT)、科学技術、知的財産戦略、クールジャパン戦略、宇宙開発などの各分野の取り組みをどのように進めていくべきか、平井国務大臣と産学官関係者との間で幅広い意見交換を行っています。
第55回では、「ユーザー利便性第一のGovTechの取組」をテーマに、千葉県市川市で実証中のLINEによる住民票の申請について、現状と課題、今後の展開などが紹介され、質疑応答や議論がなされました。
また、起業家の支援や育成に力を入れる自治体が、「地域産業の活性化」を目的に、新たなチャレンジを応援する仕組みとしてピッチイベントを開催するケースもあります。オープンイノベーションの先進自治体である神戸市、横浜市、福岡市などではすでに多くのピッチイベントが開催されています。
スタートアップ企業の多くは「世の中の課題や問題を解決したい」という社会貢献を軸に、イノベーションを創出しようとしています。「地域の課題を解決したい」と考える政府や自治体の思いとも合致するため、政府、自治体によるピッチイベント開催が増えているのではないでしょうか。
政府や自治体の間でさまざまなピッチイベントが開催されるようになった中、2019年9月3日に「第1回 自治体ピッチ〜Pitch to Local Governments〜」が開催されました。
「自治体ピッチ」は、以下のように定義されています。
自治体ピッチとは、設計段階から、地方自治体職員と開発者(ベンダー等)が利用者視点に立ったサービスデザイン思考の下、対話を重ねながら、地方自治体が共同利用することを前提として開発したシステムやアプリケーション等を、開発者(ベンダー等)が複数の地方自治体に対して提案する場のことを指す。
出典:【資料1】ピッチ(プレゼンテーション)&フィードバックについて(政府CIOポータル)
自治体ピッチは、ひとことで言うなら、「自治体のデジタル化」に関するピッチイベントと言えます。
具体的には、AIを活用した業務支援システム、AIチャットボット、行政手続き・窓口業務システムについて、開発者が自治体に対してピッチし、相互に意見交換が行われました。イベントの模様はYouTubeでライブ配信され、質問は「Sli.do」(勉強会や会議の質疑応答に特化したサービス)で受け付けられました(自治体職員限定)。さらに、9月5日から13日までを後日視聴期間として動画が配信されるなど、全国の自治体職員が場所や時間に関係なく参加できる環境も用意されました。さらに、第2回が9月26日に開催され、住民向けプラットフォーム、庁内向けプラットフォームなどについて、ピッチや意見交換が行われました。
「自治体ピッチ」が開催された背景は以下のとおりですが、最大のポイントは、政府が自治体のデジタル化の推進を加速しており、そのシステムは自治体とベンダーが共同で開発し、複数の自治体で利用することが重要であると考えられているということです。
出典:【資料1】ピッチ(プレゼンテーション)&フィードバックについて(政府CIOポータル)
今後ますます「自治体のデジタル化」が求められます。自治体ピッチでの対話をもとに、自治体職員が運用しやすいシステムが開発されていけば、システムの共同利用に向けた動きが活発化していくと思われます。
(2019年10月7日 公開)
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