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はじめに

今回から「読んでナットク!自治体ICT」のコーナーをお休みし、総務省地域力創造アドバイザーの椎川忍氏のインタビュー記事を4回に渡ってお届けします。全国を飛び回り人材育成と地域おこしの支援活動を行っている椎川忍氏に、地域活性化や自治体クラウド、ICT活用のコツなどのお話をお伺いしていきます。

――現在、多くの自治体や地域で地域の再生、活性化に取り組んでいます。その取り組みにおいて大切なことを教えてください。

地域資源の棚卸をする

[写真]椎川忍氏

地域にあるもの、つまり地域資源を生かしきるということにつきますね。先日、鳥取大学と県内自治体の共同による「鳥取発!過疎地域の戦略セミナー」を明治大学でやりましたが、そこでは、過疎・高齢化ですら自分たちの資源だと言ってました。これから日本全国、都市部でも高齢化は進みますし、アジアでも徐々に高齢化していく時代。今その問題解決のノウハウを蓄積すれば、今後それを売ることができるわけですから、見方を変えれば大切な地域資源だということです。

地域資源は、いわゆるモノだけでなく、自然、気候、風土、それに由来する歴史、伝統、文化、あらゆるものを含みます。人間がその地域に長い間住んでいるということは、その地域に人が住めるだけのモノがあり、人が住むことによって蓄積された文化がある。資本蓄積、経済システム、伝統、芸能などもすべて文化です。まずは、自分たちの地域の自然、気候、風土、歴史、伝統、文化を知り、地域資源の棚卸をすることが大事ですね。いろんな視点を入れて、これらを学び、自分たちの地域資源を把握するんです。その中から将来も含めて、その活用策を見つける作業をしなければならないと思います。

例えば、ワークショップをやって自分たちの地域がどうありたいかを語り合うのもいいでしょう。子供、高齢者、働き手の人たち、外の人にも参加してもらって、いろんな人の見方で地域資源を棚卸してみるんです。こうした作業はたぶん昔の人たちもやっているんですが、紙などで記録しても、残念ながらなくなってしまったものが多い。でも我々の時代は、デジタルやICTでなんでも記録できる。だから郷土料理のレシピやお祭り、それから農村でこんないいもの作ってるというような、伝承されなければなくなってしまう地域資源、地域の宝をデジタル化して残すんです。記録して残していくことも我々の世代の使命だと思います。

一番重要なのは人材育成

「地域にはモノと人しかない」と私の著書『緑の分権改革』にも書いてますが、モノ、つまり地域資源を生かすのも結局は人です。だから一番重要なのは人材育成なんですね。地域経営というのは、自治体運営や制度運用のつぎはぎでなく、地域全体を効率的に経営することです。だから、地域内のいろんな人が同じベクトルを向けるようにコーディネートする人材、あるいは地域資源を発掘、再生、再発見できるような人材を育てることが大事なんです。ただ、それがなかなか難しく、できていない地域が多い。補助金行政に慣れてしまい、依存心が強くなってるところがあって、国や県が何かしてくれるんじゃないかと思っているふしがある。地域も自治体も、自立心を取り戻して国や県に頼らずに自分たちが必要とする人材を育成することが最大の眼目だと思います。

人材がどんどん都会に出て行き、自分たちの地域に残っていないという話もよく聞きますが、そういう時には、人材を外から呼び込んできてもいいんです。優秀な新卒者、会社を辞めた人、リタイアした人、地域に行って活性化に取り組んでいる人はいっぱいいます。「地域おこし協力隊」はまさにそういう人たちで、全国でもう500人近くの人たちが活躍しています。対馬でヤマネコ保全に取り組んでいる博士号を持つ女性がいるのですが、彼女はそこに住み続け、古民家を借りて農業をし、結婚して子育てをすると宣言しています。「私はここで結婚して子供を産む」と言っているんです。そういう時代になってきたので、工夫すればいくらでもそういうことが起きるし、起こせるんです。
地域の人材を育てるということと、外からも人材を呼び込んでその人材を大切にすること、そして自分たちの地域資源をもう一度、見直す、発掘する、再生するということが大事なんですね。

人マネではなく自分たちの地域の発展方策を考える「ネオ内発的発展論」

外から人材やノウハウ、時にはお金まで呼び込んで、自分たちの地域資源と結びつけて発展をめざしていくことを、我々は「ネオ内発的発展論」と言っていて、それは後にお話する「緑の分権改革」の基本的な考え方です。
「内発的発展論」は、日本には日本の文化の上に立った発展方策があり、西洋的近代化と同じではないはずだとの考え方に基づくもので、明治以来、根強い底流になっています。日本の社会や民族の成り立ちは、西洋とは違いますから。日本の成り立ちを壊すようなことを自分たちがしたら、今の経済の繁栄の基礎もなくなると、みんなが深く自覚しないといけない。
日本の経済の繁栄は、結局、稲作漁労文明から出てきています。これはモノづくりの文明ですから。営々と先祖代々、水田、棚田を山の上までつくって、土地、水、太陽というまさにあるものを生かして生活してきた。何もないところから道具も作り出し、自然の恵みから農産物を作って生きてきた民族。そういったモノづくりの文明が日立やトヨタのような製造業の基本技術を生み出してきたことをもっと自覚しないといけないと思う。欧米や中国では、全く同じことはできないんですから。
今はICTが駆使できる時代であり、地方分権の時代であり、グローバリゼーションの時代だから、人材でもノウハウでも資本でも、外から持ってこられるようになった。だから地域資源を生かした「内発的発展論」に、今言ったような外的要素をつなげた「ネオ内発的発展論」を実践できる地域が伸びていくと思うんです。

「緑の分権改革」がめざす社会

[写真]緑の分権改革

「緑の分権改革」についても少しお話しします。
「緑の分権改革」は「ネオ内発的発展論」に基づいているので、地域資源を再生し、地域の自給力を高めていくことを目標としています。

今まで資本主義とか市場経済とか工業化社会とか、いろんなことでやりすぎてきた面があり、その過程で地域の豊かな自然や資源、伝統文化が軽視されることになってしまった。あるものを生かすどころかどんどん外に出してしまったわけです。消費にしても資本にしても人材にしても。それを今こそ少し取り戻していかなければいけない。
もう一度サスティナビリティ(持続可能性)ということに重点をおいて社会システムを見直す必要があるんです。もっと地域の中でモノやお金を回すことを考え、実践し、さらにやりやすくするためには、どういう国民合意を形成し、どういう法律を改正したらいいか、ということを地域から提案してもらうことが必要です。

典型例は再生可能エネルギーです。その地域の太陽、水、風、地熱などから生み出せるエネルギーがあるのに、「一番安くて効率的で安全なエネルギーは原子力」と言って、それを使ってきたんです。でも事故が起きて、みんなが盲目的に過度に依存したり、根拠なく安全神話を信じるのは危ないということに気づいた。まずは地域にあるものを有効に使って電気が使えるようなサスティナブルなシステムをつくっていくことも大事なんです。

ハイブリッド(複線化路線)な国家社会構造にしていく

「緑の分権改革」というのは結局複線化路線なんです。日本はずっと、都会に出て、いい会社に入って、高い給料をもらって、いい生活をし、みんなで経済を伸ばしてグローバリゼーションの中で勝ち抜くんだという単線化路線でがんばってきた。そのひずみが今出てるんだと思います。単線化路線は少し見直して、2割でもいいから、昔のサスティナブルな生活や社会構造を取り戻そうという国民運動みたいなものですね。都市も発展しなければいけないし、麗しい農村も維持されなければいけない。強い者がグローバリゼーションの中で戦って生き残り、経済成長することも必要だし、弱い者もちゃんと生きていけるような社会にしないといけないんです。だから複線化路線、ハイブリッドな国家社会構造をつくっていきましょうということだと考えています。

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