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第一回、第二回は行政と民間の取り組みについてお届けしました。第三回目は、山陰地方の神社・寺院の取り組みをご紹介します。

日本初の神仏習合の霊場

山陰地方には「出雲国風土紀」や「古事記」などに綴られる出雲神話があります。神話はこの地域に深く根付いており、取材中、幾度となく神様のお話を聞きました。豊かな自然の中で起きる現象の一つ一つが神様の働きとして捉えられ、語り継がれ、大切な地域資源となっています。

今回は島根・鳥取の20の神社・仏閣を訪れる巡拝の道「出雲國神仏霊場」を作った「社寺縁座の会」の方々に取り組みについてお話を伺いました。

[写真]出雲國神仏霊場公式ホームページ

椎川氏

「出雲國神仏霊場」は作られてからどのくらい経ちますか?

清水谷氏

平成17年の4月に霊場を開きましたので、もうすぐ10年目に入ります。
皆さんこの地域といえば出雲大社ですが、実はそれ以外にも歴史のあるお宮さんやお寺さんがたくさんあるんです。また、神仏習合の信仰が古くから根付いてまして、お宮さんもお寺さんもお互いに協力し合い、従属関係でない新たな神仏習合を作っていきましょう、ということで「社寺縁座の会」を20社寺で作りました。その20社寺をまわる巡拝路が「出雲國神仏霊場」です。「出雲國神仏霊場」という集合体になったことで、お宮さんやお寺さん単独よりもPR効果が大きいというメリットもありますし、規模的にもまわりやすいので、多くの方が巡拝に来て下さるようになりました。

巡拝する楽しみをICTでも提供

[写真]護縁珠(左)と御朱印(右)。島根県旧横田町は算盤の産地であり、その技術を生かして護縁珠は作られた。

飯塚氏

皆さん巡拝の証として、それぞれの社寺で「御朱印」や「護縁珠」を授与してもらいます。20社寺すべてまわると満願成就ということです。それにはそれぞれの社寺の教えにちなむ文字が書かれていて、初めてまわる方の多くがこの「御朱印」と「護縁珠」を集めていらっしゃる。でも、四国のお遍路さんにしてもそうですが、巡拝というのは何度もまわる方が多いんですね。私たちの霊場も10年目なので、2度目、3度目という方もおられます。そういう方たちの中には「御朱印や護縁珠はもう要りません」という方もいます。それで、それ以外のもので巡拝の楽しみをと考えてできたのが「デジタル護縁珠」です。

椎川氏

なるほど。いろんな楽しみがあると、何度もまわりたくなりますね。また、若い人も興味を持つでしょう。その「デジタル護縁珠」について詳しく教えてください。

[写真]デジタル護縁珠

飯塚氏

はい。もともと、「御朱印」を授与だけでなく、「護縁珠」という木製の珠を一緒にわたしています。この「護縁珠」にも朱印と同じくそれぞれの社寺の教えの文字が書かれていて、それを「護縁珠むすび」という組紐でつないで、「ご縁」をつなげていただく、というものなんです。この「護縁珠」をスマートフォンで集められるようにしたのが「デジタル護縁珠」です。スマートフォンのGPS機能を使っていまして、境内でチェックインすると参拝した証としてそれぞれの社寺の教えの文字が書かれた「護縁珠」が画面に出てきます。
最近はパワースポットとか縁結びとかで、これまでの巡拝者とはまた違った層の方、例えば若い女性の方とかも多く来られるようになりましたので、そういう方にはこの「デジタル護縁珠」のスマートさとか気軽さがうけているようです。

椎川氏

面白いですね。集める楽しみみたいなゲーム的な感覚で、若い人にも霊場が身近に感じられそうな取り組みですね。

便利なICT、提供側のリテラシー教育や課題も

[写真]一畑薬師 管長 飯塚大幸氏

飯塚氏

ありがとうございます。ただ、「デジタル護縁珠」の立ち上げの時は大変でした。提供する私たち20社寺の人が仕組みや操作を理解するのが難しくて。巡拝者の方に聞かれたときに答えられないと困りますからね。それで、20社寺の人向けに何度も説明会をしましたが、スマートフォンを持っていない人には何度説明しても理解できないので、一連の動作がわかるように説明用の動画も作り、ICTリテラシーを高める努力もしました。それが一番大変でしたね。私たちも新しいものを取り入れていくためには、どんどんそういった知識を身につけていかないといけないと思います。
ちなみにその動画は、YouTubeでも公開していまして、巡拝者の方が自分で調べられるようにもしています。

椎川氏

まず提供する側がきちんと理解しておくことが大事ですね。
YouTubeに動画を公開されたとのことでしたが、「出雲國神仏霊場」自体のPRはどのようにされていますか?

[写真]大神山神社 禰宜 相見正邦氏

相見氏

そうですね。PR活動は、最初は地元を固めようということで、県内にパンフレットを置いていましたが、今はYouTubeもそうですが、WebサイトやFacebookで情報発信をしています。それを見て県外や海外からも来てくれる方が増えました。インターネットで検索して来られるようですね。

[写真]瑞光山 清水寺 貫主 清水谷善圭氏

清水谷氏

私のところ(清水寺)には「Webサイトを見てさらに関心が深まった」と言って千葉から巡拝に参加された方がありました。
そういう意味でICTはとても便利で欠かせないツールになっているんでしょう。ただ、もう少し使いやすくなってくれるといいですね。今は過渡期で、使えない方もたくさんいますから。スマートフォンにしても、若い人は使いこなせていますが、少し上の世代になると持ってはいても、使いこなせている人は少ないです。

相見氏

私も使ってますが、使いづらいと思うことはあります。小さな画面でいろいろ選択しないといけないし。一度操作を間違えたりすると、ちょっと大変で。

椎川氏

確かにスマートフォンの画面は、老眼の方には見づらいですね。

相見氏

「デジタル護縁珠」にしても、興味をもっていただく切り口が増えたという意味でとてもよかったですが、まだ課題はあります。山の中の社寺だと電波が悪かったり、スマートフォンの画面が小さいとか操作が複雑とか。これからもどんどん使いやすいものに進化させていかないといけません。

Facebookの特性を活かした新たな情報発信の可能性

[写真]峯寺 副住職 松浦快遍氏

松浦氏

私は「出雲國神仏霊場」のFacebookを作っていますが、情報発信の仕方もどんどん変わってきてます。私が説明するまでもないですが、Facebookは新しい情報を載せると、登録してくれている人に情報が送られます。これまでのブログやWebサイトは相手が興味を持った時には情報を見てくれますが、こちらからのプッシュは弱いです。Facebookはリアルタイムで更新した情報が相手に伝わります。そういった特性を活かした情報発信をしていきたいと思っています。

飯塚氏

Facebookの活用にしてもデジタル護縁珠にしてもそうですが、絶えず何らかの新しいことに取り組んで、多くの方に「出雲國神仏霊場」を知ってもらいたいと思っています。「出雲國神仏霊場」に来たことがない方にも、何度も来ている方にも、「行きたい」と思ってもらえるような、継続的な情報発信が必要だと感じています。

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